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このころのシュヴァルツコップの声には、どこか弱さを持った人間が浮かび上がってくる。 ― ロマンティックで、イギリス的な雰囲気な作風のサー・ウィリアム・ターナー・ウォルトン(1902〜1983)は2つの世界大戦中から戦後にかけて純音楽の分野で活躍しました。彼の音楽は、ディーリアスやヴォーン=ウィリアムズのようなイギリスの田園風景を彷彿とさせるものではないが、明確な調性に基づきながら用法は新鮮かつ大胆。気品があり、時にユーモアも感じられる。毒舌と思える場合も多い ― 実に〝英国らしい〟現代イギリス音楽を代表する作曲家です。代表作とされる2曲の交響曲(第3番は未完)や協奏曲(ヴァイオリンのための、ヴィオラのための、チェロのための)とするオーケストラ作品に非凡な才能を発揮し、ストラヴィンスキーやプロコフィエフら同時代の作曲家からの影響のみならず、ジャズやラテン音楽といった幅広い音楽語法も巧みに採り入れて、あらゆる分野において万人に愛される明快で情感豊かな作品を残している。歌劇《トロイアスとクレシダ》は3幕からなる長大なオペラで、ウォルトンでは知られた作品だろう。過去の自作を含む音楽を換骨奪胎したようなニヤリとさせる部分も多く、ウォルトンや同時代の作曲家の音楽が好きなクラシック音楽ファンほど楽しめます。平易な音楽に美しい歌、〝ペレアスとメリザンド〟以降のフランス近代音楽 ― あるいはサン=サーンスやラヴェルの明晰な音楽と、マーラー以降中欧音楽の影響は感じられ、部分的には意図的に模倣しているのではないかと思わせるとの意見もある。自作有名曲すべてからいいとこどりして構造化していくウォルトン特有の書法の癖で、詰め込みすぎて息の詰まる作風をとても聴きやすいレベルに引き伸ばし、均される。同時代イギリス音楽の上品で透明な音楽との共時性は横溢しているものの、第1幕は比較的ウォルトンの個性的な音楽は鳴りを潜め、第2幕でもマーラーの「大地の歌」第6楽章「告別」冒頭を思わせる重苦しいパッセージやシェーンベルクの「浄夜」「室内交響曲」が醸し出す雰囲気が感じ取れる。〝トロイラスとクレシダの物語〟はトロイの王子トロイラスとクレシダの恋愛話で、アガメムノンとプライアム両大将を軸としたトロイ戦争を背景に、ホメーロスの『イーリアス』でいうと、アキレウスの参戦拒否からヘクトルを斃すまでが描かれる。初演は1954年。この頃のエリーザベト・シュヴァルツコップは声もしっかりと出ており、迫真力に富んでいて実にいい。歌の一つ一つが丁寧に書かれており、どこか弱さを持った人間が浮かび上がってくる。描写的表現がじつに上手く、新古典主義の作曲家なので、19世紀オペラを聴いているのと大差ない感覚で聴ける。改訂版は、1972年の再演でジャネット・ベイカーが歌うクレシダが、メゾソプラノに作曲家自身により書き変えられた。ウォルトン自身手を入れた1976年の最終稿もあり、それを元に、作曲者死後1994年にスチュアート・ハッチンソンによって、1954年の元の音域のソプラノのクレシダを復活させた第3改訂版といえるものでの上演が現在ではある。
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