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現代人の感覚にフィットしたウィーンの音楽 ― アルバン・ベルク四重奏団の演奏は盤石の安定感で、クッキリとしたメロディーを、踏み込みすぎずに奏でて行くスタイル。ハイドンの音楽に潜む人間的なウイットとかユーモアの表現を裏切ってくれて、心地よかった。作曲年代は1792~93年、つまりモーツァルトが亡くなった直後、ハイドン自身が最初のロンドン遠征から帰ってきたばかりの頃に書かれた、ハイドン自身の創意が最も幸福な充実をみせていた時期。何を書いても傑作になってしまう晩年の創意をふんだんに発揮しながら、ハイドン自身楽しんで書いたのだろう。愉悦あふれる世界が広がっている。第74番の愛称である《騎士》 は、第4楽章の第1主題が馬のギャロップを想起させることに由来する。ほの暗い表情を織り交ぜながら、かなり多彩な展開。「ハンガリー風の響き」が絶品。唯一の短調曲として暗色の美を醸し出す《騎士》の意気揚々たるテンポも最高。ギュンター・ピヒラーのヴァイオリンは他の3人のアンサンブルの調和を乱さず、うすく縁取りを浮き立たせる加工のように絶妙なもの。響きの完成度は高く、アルバン・ベルク四重奏団はハイドンの造形美を、このクッキリとした響きを造る事にこだわって聴かせたのだろう。そこをデジタルの音は硬いといわれるのを後押ししたところはあるが、この演奏を好む方も多いと思いますが、わたしにラテン音楽をいろいろと聞かせて面白さを教えようとしてくれた上司も、この〝クラシック音楽〟に夢中になってくれた。そんな昔を思い出しつつ聴いていると、今わたしが面白いよ、聴いてみてと言っているのはその上司の聴かせ方に似ていることに気がついた。思っていなかったところで伝授されていたのか。ウィーンの伝統と新しい時代感覚の見事な融合が生み出した、新しいモーツァルトの世界。モーツァルトの弦楽四重奏曲の中でよく録音されるのは第14~23番の10曲で、中でも「ハイドン・セット」と呼ばれる6曲(14〜19番)が有名です。モーツァルトは1782年から85年1月にかけ、その直前に発表されたハイドンの「ロシア四重奏曲」に大きな影響を受けつつ、6曲の四重奏曲を作曲、ハイドンに捧げた。29歳のことだった。「ロシア四重奏曲」自体、ハイドンの自信作であるが、モーツァルトはハイドンが示した優れた技法を自分のものに消化吸収し、さらに見事な作品として結実させた。「ハイドン・セット」はモーツァルトのこの分野における代表作であり、とくに最初に置かれた《春》は魅力的である。ハイドンからの影響である主題の緊密な構成、ウィーンに移り住んでからのバッハ体験による対位法的な技法、さらには半音階法や切分音の使用などが表現を極めて多彩にしている。この〝K.387〟のレコードには、スメタナ、メロス、プラハなどの鑑賞すべき演奏があり、それぞれ高い評価を受けているが、わたしはそれらのいずれにも増して、アルバン・ベルク四重奏団は推薦したい。わけても第3楽章のアンダンテ・カンタービレこそ美しさの極みである。とくに第1ヴァイオリンのデリケートな響き、チャーミングに溢れた音楽は、どんなに褒めても褒めすぎることはないと思う。アルバン・ベルク四重奏団は1989年に英EMIにデジタル録音していますが、それよりも古い時期の録音ながら本盤のモーツァルトは柔軟で優雅な印象でした。2曲の録音には開きがあり、《騎士》は1974年、《春》は1977年1月録音。ただ、第2ヴァイオリンのクラウス・メッツェルはこの録音の直後に、ゲルハルト・シュルツと交替しています。そういうわけで、これはカルテット発足時のメンバーによる末期の録音ということになります。ドイツ批評家選賞受賞盤。→コンディション、詳細を確認する
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