神々の破壊を描いた「ニーベルングの指環」は最後に新しい世界を予見する

1869年の本日、ワーグナーの代表作である舞台祝祭劇『ニーベルングの指環』4部作の1作目、『ラインの黄金』がミュンヘン宮廷歌劇場にて初演された。こののち『ヴァルキューレ』が1856年、『ジークフリート』は1858年から1864年にかけての中断をはさんで1871年、『神々の黄昏』は1874年に完成する。

神々の破壊を描いた大叙事詩的連作オペラ《ニーベルングの指環》の第1作 ― 正確には序夜、「ラインの黄金」から、新しい城ヴァルハラへ神々が入っていく場面の壮麗なフィナーレ(ヴァルハラ城への神々の入城)を聴こう。黄金を奪われたことで神々の終焉を恐れるラインの乙女たちの「ラインの黄金よ!」の嘆きの歌が印象的だ。

ラインの乙女たちの「ラインの黄金よ!」

ラインの黄金!ラインの黄金!きよらかな黄金!
何とけがれなく、明るく、愛らしく輝いていたことか!
ああ、悲しい・・・あの透き通った黄金がないなんて。
どうか返して!
あの清らかな黄金を、あたしたちに返して!

ラインの黄金!ラインの黄金!きよらかな黄金!
ああ。もう一度、けがれなき水底のおもちゃとして輝いて!
信頼と真心があるのは、ただこの水底ばかりで、
上のほうでは、虚偽と卑劣が我が世の栄華を誇っている!

1848年。19世紀のほぼ中頃にあたるこの年は、世界史上の重要なことが集中して起こっている。その同時性に注目しておこう。まず1848年革命といわれる一連のフランスにおける二月革命、プロイセンとオーストリアにける三月革命によってウィーン体制が崩壊した。

フランスで起こった二月革命で、七月王政が倒れて第二共和政が成立した。臨時政府内でブルジョワ共和派と労働者の社会主義派の対立があり、四月普通選挙で勝利したブルジョワ派が国立作業場を廃止したことから労働者が六月暴動を起こし、それが鎮圧されたことで革命は後退した。12月にルイ=ナポレオンが大統領に選出される。

続いてフランスの隣でドイツ連邦を構成していたオーストリア、プロイセンなどでも三月革命が相次いで起こる。まずオーストリア帝国の首都でのウィーン三月革命ではメッテルニヒが失脚し、ウィーン体制が崩壊し、さらにプロイセンの首都でのベルリン三月革命が勃発、国王はドイツの統一と憲法制定のためのフランクフルト国民議会開催を約束、普通選挙が行われて5月に開催された。国民会議はプロイセンの主張する小ドイツ主義とオーストリアの主張する大ドイツ主義が対立、まとまらなかった。

フランスで六月暴動が起こると、革命が社会主義の方向に向かうのを恐れた臨時政府は軍隊の力でそれを鎮圧された。これを機に、ヨーロッパの革命は後退期に入り、1848年10月から1849年6月までの間にプロイセンやオーストリアでも君主制が復活し、共和派など革命派は厳しく弾圧されることとなり、同時に国民国家の形成も遅れることとなった。

フランスにおいても第二共和政はルイ=ナポレオンによって形骸化され、1852年にはナポレオン3世の第二帝政に移行する。またドイツにおいては、プロイセンによる統一が急速に進みビスマルク時代を迎え、一方のオーストリア帝国は多民族国家としての苦悩を深めていく。

ウィーン体制から次第に距離を置くようになっていたイギリスは、一人、産業革命後の工業化にひた走り、海外植民地を拡大して繁栄の道を歩んでいく。そしてアメリカ合衆国は間もなく南北戦争の危機を克服し、大国への歩みを開始する。東ヨーロッパではロシアが大国化し、バルカン半島やアジアでの南下政策を強め、新たな脅威となり始めた。19世紀後半の欧米は、このような大国(列強)が競い合う時代となっていく。

革命の後の1849年からワーグナーは、12年間の亡命生活をおくる。住まいを転々としながら、彼は退廃的な社会が簡単に打倒されることはないことにすぐに気づきました。亡命の最初の4年間、彼は音楽を書きませんでしたが、彼は膨大な量の理論的文章を生み出しました。もともとは単一のドラマになるはずだった作品のテキストを制作することに駆り立てられたが、彼は後ろ向きに働き、彼の主題の範囲に気づいたので、結局は4つになった。そして、リング サイクルが始まりました 。もともとは単一のドラマになるはずだった作品のテキストを制作することに駆り立てられたが、彼は後ろ向きに働き、彼の主題の範囲に気づいたので、結局は4つになった。そして、リング サイクルが始まりました 。最初のドラマは ラインの黄金で、自然は穏やかで時には嵐のような壮大さで、ライン川の深さを想起させる音楽によって並外れたオープニングに描かれています。156本の小節はほとんど聞こえないほど低く静かな音で始まり、徐々に堂々と流れる川。この平和の牧歌は、ドワーフのアルベリヒがラインの乙女を誘惑しようとしたことですぐに崩壊し、彼らが彼を逃れると、彼はラインの金を盗みます。アルベリヒは最も粗雑で魅力的でない欲望であり、彼の主な敵はすでに権力を持っているが、絶望的に道徳的に妥協している神々であり、主任のウォタンは彼がおそらく維持できない掘り出し物を打ちました。ラインの黄金は、すぐにわかるように、政治に対する苦くてしばしば思いやりのある風刺であり、多くの政治家のように、ウォタンは高い理想を持っているが、彼が世界を統治する規則に違反せずにそれらを実現することはできないことが示されています。したいと思う。ラインの黄金の敵対者の間では、これまでに聞いたことのない一種の音楽に設定された長い議論があり 、ワーグナーが「終わりのないメロディー」と呼んだものは、「主要なモチーフ」によって支えられています。これは、たとえば、リング、ライン、愛の力として安全に名前を付けることができます。ラインの黄金 は、2時間半の時点で、西側世界で最も長く途切れることのない音楽のストレッチであり、ワーグナーはリング の残りの部分が探求するすべての基本的な問題を設定します 。