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ハイドシェックの豊かな詩情が胸をうつ。 ― アルフレッド・コルトー(1877〜1962)の愛弟子のひとりであり、60年以上に亘る演奏歴を持っている。その活動はもちろん国際的ではあるが、いわゆる世界トップクラスの超人気ピアニストというよりは、一部のファンに深く愛されるという印象がある。本盤は日本にもコアなファンが多く存在しているフランスの名ピアニスト、エリック・ハイドシェック若き日の名演集です。〝魅惑の巨匠〟と呼ばれるフォーレのロマン性、神秘性、こまやかな情緒を見事に描き切った作品。美しいタッチ、透明な輝きで、フォーレの内面を明確に捉え、彼独特のクセの強さや自由な即興性で、より興味深い形で表われている。フランスの古都ランスのシャンパン王シャルル・エドシック家に生まれたハイドシェックは、粋で洒脱で色彩感に富む個性的なピアノを奏でることで知られる。
確かに恵まれた子ども時代を過ごしましたが、私の時代は戦争があった。その苦難はいまでも忘れられません。明るく見える曲でも楽譜の裏に秘められた影や暗い部分を読み取るようになったのは、この経験があるからですこう語るハイドシェックは、6歳のときに偉大なピアニスト、コルトーに才能を認められピアノを始める。
コルトーも作品が内包する影を愛し、ほの暗い表現が好きでした。ですから私も作品に潜む哀愁や陰影を表現することを好みますここにいるフォーレは慎ましく端正、折り目正しく律儀、温和でひっそりとした柔らかな抒情といったキーワードが似合うばかりのフォーレではなく、激情とあり余る生気、不可解な神秘や幻想も露にする、あまりにもダイナミックなフォーレである。ふつう私たちの目に留まるフォーレの写真とかカリカチュアは、白髪謹厳な老作曲家のそれであるが、フォーレにもシュトゥルム・ウント・ドラング(疾風怒濤)の若き日があったのである。ガブリエル・フォーレの「バラード 嬰ヘ長調 Op.19」には、ピアノ独奏版とオーケストラとピアノのための版とが存在する。ピアノ独奏版を試奏したフランツ・リストが「指が足りない」といった有名な話があり、オーケストラ版を勧めている。「これは難しすぎる」と言ったのではなく、フォーレが用いた大胆な転調法から来ているのだろう。フォーレ独特の音階や転調はそこかしこにあらわれるが、晩年に見られる晦渋で難解さを思わせるものはない。むしろ、ごく自然な流れのうちに心地よい驚きに心が奪われる。この「三本の手」の効果をオーケストラを混じえたら晴れするとリストは直感したことだろう。ハイドシェックは、ロベルト・ベンツィ指揮のオーケストラを従えて、歌舞伎の見栄を切っているようだ。フレーズの解釈も、同じメロディーを最初スタカートで、次にスラーで変化をつけた表現をしたのにはたまげた。このような演奏は、フォーレ固有の音楽様式とは反するように思えるのだが、これは贔屓の引き倒しだろうか、なぜか許してしまう。
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