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シューマンを好きになる ― ショパンやラフマニノフと並び、ウラディーミル・アシュケナージがこよなく愛したシューマン。《交響的練習曲》と《幻想曲》は「クライスレリアーナ」と並ぶシューマンのピアノ曲の最高傑作の一つであるだけあって実に素晴らしい作品です。作品の充実度という点だけで無く、わたしの“好きな曲”という基準でも、この3曲は抜きん出た存在です。どれも彼にとって得意なレパートリーで、その後1980年代から90年代にかけてシューマンの主要なピアノ作品を再録音していますが、これはそれとへ別の若き日の録音。アシュケナージ28、29歳のときの録音で後年のスケール感や余裕には欠けるが、ピンと張り詰めた精気みなぎる演奏がみずみずしい。《交響的練習曲》の首尾一貫した音楽性は、まさにアシュケナージならではのものと言えるでしょう。その美しい主題は一時シューマンの婚約者であったエルスネティーネ嬢の父親のフリッケン男爵の作で、12の変奏曲形式の練習曲から出来ていますが、シューマンはこの曲を一度改定したことが有り、そのとき外された5つの変奏曲をブラームスが後に校訂し遺作とした。この遺作の変奏曲の曲順をどう配置して演奏するかは、音楽の表情が変わるものとなる。アシュケナージは持ち前の明るく口当たりの良いタッチで、流麗に、わかりやすく料理している。早めのテンポが、いかにもシューマンらしい躍動感を生み出して、その音楽を魅力的なものとしている、良い意味で万人向きのピアノである。打鍵の粒が揃った演奏でメロディラインははっきり聴こえる。実に細部まで美しく彫琢された、現代的なすこぶる明快な演奏です。磨きぬかれた輝かしい音色、ニュアンスに富んだ表現力、優れた音楽性、筋のよい安定したテクニックと、あらゆる面において現代のピアニストの水準を上を行く演奏を聴かせています。メランコリックなシューマンのイメージの中に無限で普遍的なものを見、私的過ぎるシューマンの音楽をファンタジーに変換していく。リスニングルームがシューマンの世界で満たされて、えもいわれぬ夢幻の世界へと誘ってくれる。木の香り漂う温かいベーゼンドルファーの重心の低い響きと、その自然なタッチのもとに歌うシューマンの世界は、他のピアニストではけっして得られない独特の世界。 アシュケナージは指揮者になった後も「ピアノを弾かないと眠れない」と言うほどピアノが好きなピアニストで、2004年に大バッハの「平均律クラヴィーア曲集1巻、2巻」を録音しているのは驚きです。難しいフーガを速いテンポで弾いたり、アシュケナージほどレパートリーの広いピアニストはいないでしょう。ステレオ録音の発展期からデジタル録音の時代に数多くの全集録音をしたアシュケナージは、いい時代に生まれたピアニストだと思います。“ステレオのデッカ”と専属契約を結んでレコーディングを開始する以前の若い時のステレオ録音でさえ、デジタル録音に劣らず良い音です。皆さんとシューマンを、アシュケナージの演奏で楽しみたいと思います。
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