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若き情熱が迸るシューマン ― ショパンやラフマニノフと並び、アシュケナージがこよなく愛したシューマン。ドイツ・ロマン派の典型的な芸術家であったシューマンはすぐれたピアノ曲をいくつも残しています。「交響的練習曲」や「幻想曲」と並び「クライスレリアーナ」はシューマンのピアノ曲の最高傑作の一つであるだけあって実に素晴らしい作品です。「クライスレリアーナ」は8曲の幻想的な小曲から成るピアノ独奏曲で、タイトルはドイツ・ロマン主義文学の代表的な作家、ホフマンの小説に登場する楽長クライスラー氏に由来しています。シューマンは彼にとって得意なレパートリーで、彼はシューマンの作品にも若い頃から取り組んできた。その後1980年代から90年代にかけてシューマンの主要なピアノ作品を再録音 ― 「クライスレリアーナ」は、その後2回録音していますが、これはそれとへ別の若き日の録音。どれも質の高いものだったが、この若き日の録音も魅力が横溢していて忘れがたい。「クライスレリアーナ」には美しい旋律と華やかな技巧、華麗な演奏効果、ダイナミックな迫力など様々な表現個所がありアシュケナージの録音も情熱に満ちているが、そこにはすでにスタンダードな解釈という軸を見据えた姿もある。変幻自在な表情の変化が、アシュケナージの研ぎ澄まされたピアニズムにマッチしています。冒頭曲は激しい流動感を伴うが、アシュケナージの拍は明瞭で、かつ流れを損なわないような配慮を伴っている。かつ中間曲では美しいソノリティで詩情を持って歌われる。そう、いかにスタンダードな解釈を目指していても、絶対的な詩情を持ち合わせているため、人の涙腺に触れるような音楽が湧き出てくるのである。そして「フモレスケ」の幻想味も味わい深いアルバムです。「フモレスケ」も同じように技巧と情感のバランスが巧みで、節々の末尾がきれいにおさまるのが印象的。アシュケナージは持ち前の明るく口当たりの良いタッチで、良い意味で万人向きのピアノである。打鍵の粒が揃った演奏でメロディラインははっきり聴こえる。実に細部まで美しく彫琢された、現代的なすこぶる明快な演奏です。磨きぬかれた輝かしい音色、ニュアンスに富んだ表現力、優れた音楽性、筋のよい安定したテクニックと、あらゆる面において現代のピアニストの水準を上を行く演奏を聴かせています。木の香り漂う温かいベーゼンドルファーの重心の低い響きと、その自然なタッチのもとに歌うシューマンの世界は、他のピアニストではけっして得られない独特の世界。シューマン作品のロマンティックな持ち味が、アシュケナージの抒情に富む表現によって写し出されている様な演奏です。
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