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エディンバラ音楽祭の〝母なる声〟 ― シューマンの歌曲集『女の愛と生涯』に、私はキャスリーン・フェリアーの優れた資質を見る。彼女を聴いて思うこと。楽器の音の美感は、多く人声を理想とする。そしてフェリアの声は、人の声の中でも、至高の美しさだった。フェリアーは1953年にわずか41歳の若さで亡くなりましたが、その馥郁たるコントラルトは不世出の声として歴史に刻まれています。フェリアーは録音でもブルーノ・ワルター指揮によるマーラーの「大地の歌」や「亡き子をしのぶ歌」の名唱は、今なお決定盤と称えられています。ワルターも彼女の声の資質を高く評価し残された「大地の歌」の録音のうち3回、彼女をソロに起用しました。本盤はBBC放送による、1949年エディンバラ音楽祭の録音。伴奏は、彼女の歌声にほれ込んでいたと言われるワルターがピアノ演奏を買って出ています。フェリアーが当時有名な声楽教師であったバリトン歌手のロイ・ヘンダーソンについて学んだことも、清冽で暖かみを持ち伸びやかな彼女の歌声で、且つフェリアの歌唱技術は男声・女声の区別を超越した素晴らしさを持っていると、高く評価される所以でしょう。卓越した指導者のもとにあったとはいえ、天賦の才能で、音楽と詩のひと次元高い合一を成就させてしまう歌手もいないではない。私はフェリアーがそうした人だったと思っている。彼女の歌うヨハン・セバスチャン・バッハの「マタイ受難曲」は伝説的名演として語り継がれているものです。この録音は英デッカの企画で1947年にセッションが始まったのですが、当時としてはあまりにも大曲であったためか、彼女の契約の関係で年内に録音が完了することはなく完成はその翌年まで持ち越されました。この入念な準備に裏打ちされた演奏、もちろん完成度の高さには目を見張るものがあります。
最初から終わりまでほとんど変わりない遅いテンポで、しかも終曲を除いてはあまり劇的変化もないこの曲を、一貫した情緒で、じっとテンポを抑え、リズムを正確に歌うことは容易ではないし、また、漂うように起伏する表情が巧みに歌に出なかったら退屈になってしまうのであるが、フェリアーはいささかも崩れず乱れず、良く表情を出して微妙な変化を与えているところ、非凡な歌手に違いない。― 昭和28年(1953年)のレコード芸術6月号で「亡き子を偲ぶ歌」推薦盤として初めて彼女のレコードを紹介している。低音が安定していて、深い味わいを出している。フェリアーの声はコントラルト特有の深い豊かな共鳴の中に清冽で透明感ある気品が漂うもので、本盤もその特徴が如何なく出ているフェリアーの遺産の一枚。ワルターのいじらしいほどのロマン的なピアノも興味深い。数多い録音の中で、フェリアーのブラームスほど歌詞に秘められた悲しみ・憂いが粛々と表現されたものがあるでしょうか。シューマンで聴かせる喜び、悲しみもフェリアーの声にかかれば決して取り乱したものにはならず、余裕を持った趣で彩られたのでした。フェリアーの、かすかに憂いを含んだ歌唱は、特にシューベルトの歌曲《死と乙女》のような、やや暗めの曲にはいっそうピタリと合う。ファリアーの薄幸を思うと、冒頭の語りがいっそう胸にじんと来る。
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