豪快にしてダイナミックな下品さ。 ― ショルティはレパートリーが広いが中心領域はワーグナーにあるように思われる。彼の演奏スタイルが古典派でもロマン派中期のリストやワーグナーの壮麗さを帯びて来るところから言っても、根本的にワーグナーの楽劇に長所を発揮するであろう。と、「指環」録音中の期待された時代。本盤は、1961年7月ローマでの録音。米RCAの録音スタッフが1960年代にローマ歌劇場へ赴いて制作したオペラ・アリア集、全曲盤は数多い。何といってもタイトルロールのレオンティン・プライスが聴きものですが、1961年当時34歳という絶頂期の録音だけに、深々と豊かな表現の歌唱力が素晴らしい。カナダ生まれのテノール、ジョン・ヴィッカーズは1950年代から1960年代に全盛期を築いてマリア・カラスの共演者にも抜擢され、国際的な演奏活動を展開した。彼はやや暗く太い声を持っていて、一般的に明るく輪郭のはっきりした声が求められるイタリア・オペラにはそれほど向いているとは言えないが、美声を駆使するタイプではないにしても、良くコントロールされた頭脳的な、スケールの大きい骨太な表現は真に迫ってくる。リヴィングステレオシリーズ、米RCA LSC6158と同じ録音。北米での販路を得るために提携していたのでRCAからも同じデザインで発売されていますが、録音を担当しているのはDECCA録音チームとなります。黄金期のDECCAだけに良い録音。本盤でショルティは、ヴェルディが意図したと思われる古代の遺跡や彫像に通ずる率直で硬質なドラマティシズムをあますところなく表現している。《アイーダ》が近世ヨーロッパのドラマではなく、古代世界の物語であることを納得させられる。そこから古代人の質朴な愛憎の葛藤も浮かび上がってくる。上品さにかけるが、生々しく心情を吐露していて生き様として迫ってくるじゃないか。巫女たちの妖艶な歌声が堪らなく厭らしい。王女の身分を隠して敵国の王女の世話をしている主人公。解放を懇願する捕虜の中に長年あえなかった父王の姿を見つけて思わず声をかけてしまったので身分がバレてしまう。そこから音楽は登場人物たちの心情をとことん語り尽くすが、音響的聴かせどころは前半だ。有名な「凱旋行進曲」のアイーダ・トランペット独特の輝きを振り撒きながら突き進む音色や、その前のワイドでド迫力の合唱もショルティの引き締まったスケール豊かな指揮と相まって実に見事でスカッと気分爽快になる。オーディオ的に聴いても第一幕第一場後半や第二場後半の合唱が力強くワイドに拡がり、その迫力に圧倒されてしまう。日本ではショルティのヴェルディ演奏は〈レクイエム〉以外ほぼ黙殺されてしまった。レコード店の大先輩から、ショルティの音はとにかくでっかかったと教わったことがある。ホールが飽和するほどにオーケストラを響かせたということだろうが、そうした批評が割りを食わせているのがショルティのこの『アイーダ』だ。曲に対する期待が二分するのだろうか。舞台演出や生演奏には到底及ばないわけでレコード録音はアプローチが違って当然だろう。不思議な話である。2017年は、20世紀を代表する巨匠指揮者サー・ゲオルグ・ショルティ(ハンガリー、1912〜1997)の没後20年、及び生誕105年でした。1912年、ブダペスト生まれ。リスト音楽院でバルトーク、コダーイ、ヴェイネルなどにピアノ、作曲、指揮を学び、1930年に卒業後、ブダペスト歌劇場の練習指揮者として経験を積み、1936、37年にはザルツブルク音楽祭でアルトゥーロ・トスカニーニの助手をつとめた。1938年にブダペストでモーツァルトのオペラ「フィガロの結婚」を指揮してデビュー後にスイスに亡命、大戦中は主にピアノを教え、1942年のジュネーブ国際コンクールに優勝している。指揮者としての本格的な活動は戦後の1946年にミュンヘンのバイエルン国立歌劇場の音楽監督に就任してからで、1952年からフランクフルト市立歌劇場、1961年から1971年までロンドンのコヴェント・ガーデン王立歌劇場の音楽監督をつとめ、この間に各地のオーケストラに客演して名声を高めた。ディスコグラフィーをみると、ショルティは1947年に録音契約を結んで以来、ほとんどDECCA(ロンドン)だけに録音している。ピアニストとしての契約だったが、指揮者としての活躍がレコード製作とシンクロしている。はじめロンドンのオーケストラと、さまざまな作品を録音していたが、1950年代から1960年代にかけてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と録音した世界初の「ニーベルングの指環」全曲(1958〜1965年)に代表される一連のワーグナー楽劇、管弦楽曲集をはじめ、モーツァルト、ヴェルディ、リヒャルト・シュトラウスなどのオペラの優れた演奏で名声を不動のものとした。1969年から1991年までシカゴ交響楽団の音楽監督を努め、同響は世界最高のオーケストラのひとつと評価された。シカゴに移ってからはバッハからバルトークにいたる多彩なレパートリーを次々と録音しているが、とくにマーラー(1970〜1983年)、ベートーヴェン(1972〜74年、1986〜89年)、ブラームス(1978、79年)の交響曲全集は、ショルティの演奏を特徴づける堅固な構成と見事に統率されたオーケストラの豊かな響きとが端的に示された代表的な名演である。そのほか恩師バルトーク、リヒャルト・シュトラウスとストラヴィンスキーなどの管弦楽曲、後年になってレパートリーに加えたショスタコーヴィチなど、いずれも少しも年齢を感じさせない巨匠ならではの完成度の高い演奏である。半世紀にわたり一貫して英DECCAに録音し、数々の名盤を遺した重要なアーティストであり続けた。なによりもショルティと関係良好だったウィーン・フィルと後世に語り継がれるオペラをウィーンのソフィエンザールで次々と録音している。その一方で英国デッカ社は、ロンドン交響楽団やロンドン・フィルハーモニー管弦楽団との有名管弦楽曲の録音を進めた。ショルティはハンガリー人だが、ご存知のとおり後年は英国籍を取得したし「サー」の称号も得ている。シカゴ響の音楽監督としての活動が主に知られているが、もちろん、ロンドン・フィルは首席指揮者を1979年から1983年までつとめているので、ショルティにとって大変縁のあるオーケストラであり、エルガーの2つの交響曲のほか、行進曲「威風堂々」、「エニグマ変奏曲」なども同オーケストラと録音している。
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