浪花節だろうと、スタイル画一から個性を認めた ― 昨日の午後に、鶴屋百貨店で行った鑑賞会で聴いてもらった曲です。鑑賞会ではフリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団の演奏を選びましたが、こちらも同じ時期に録音されました。鑑賞会で解説したことを折り込みますが、ここで一昨日紹介したベルリオーズの「幻想交響曲」に引き続いて録音された、ドビュッシーの交響詩「海」も、個性的にロマン色あふれた演奏で、最晩年のパリ管弦楽団と比べても演奏、録音ともはるかに上まわる。サー・ジョン・バルビローリの音楽は、濃厚な表情に特徴のあるロマンティックなもので、ロマン派や近代の作品を得意としており、フランス音楽でも個性豊かな演奏を聴かせていました。ベルリオーズもドビュッシーもラヴェルも気持ちを込め抜いた演奏で実に個性的。表情ひとつにもそれらしさを出そうとして、冒頭など妙にものものしく、リズムを刻んでいる各楽器の「合いの手」も少々無機的な方向へ傾きます。どことなく演歌調で、最後はクライマックスの後にみえを切るようなオチをつけるあたり、バルビローリらしい。クロード・モネの「印象、日の出」が「印象派」という呼称の元となった絵画作品ですよね、当時は「未完成の描きかけ」だとか「即席で仕上げた」なんて酷評されたそうですが、音楽の方は《海》にしろなんにしろ、ある瞬間の対象を、もっとも写実的に描いています。モネに文句を言うわけではないんだが、〝印象主義音楽〟がイコールにされがちなのはなんとかならんかね。ドビュッシーの音楽が、フランスの音楽であるというイメージから、優雅で上品な、ただ耳に心地よいお洒落な音楽だと思っている向きには市場に溢れている凡百の音譜を聴けばおおむね満足できるでしょう。ロマン派音楽に見られるような主観的表現を斥け、激しい情緒や物語性の描写よりも、気分や雰囲気の表現に比重を置いた印象主義音楽は、ドイツ後期ロマン派音楽への反動に始まり、中世西洋音楽・ルネサンス音楽などバロック以前の音楽様式の影響の下、長調と短調をぼかすような音楽語法、非機能的な和声法や完全音程の平行、旋法性、不協和音の多用、簡潔で明快な形式への偏愛などを特徴とする。ラヴェルは、ピアノ曲において「印象主義的な」作曲を始めたのは自分であって、ドビュッシーよりも先だったと語っている。しかしながら『水の戯れ』のように、印象主義の典型的な音楽語法を採る作品でも、新古典主義者としての面目は躍如たるものがあり、より自由な形式を好んだドビュッシーとの違いは明確である。印象主義の音楽とは、美学的に言うと、例えばドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』に見られるように、感情を表現しようとか物語を語ろうとかするのではなく、気分や雰囲気を喚起しようとするものであって、ドビュッシー自身は、印象派の画家たちとは何か違うことをしようとしているのだと言い、同時代のフランス美術よりも、ジェームズ・マクニール・ホイッスラーやダンテ・ゲイブリエル・ロセッティらの19世紀イギリス絵画や、ムソルグスキーやリムスキー=コルサコフのロシア音楽への共感を語り、象徴派と主張した。それを「印象派」時代の音楽として、どのドビュッシーでも印象主義的に解釈するのは自由なれど、ここで聴ける演奏は、張りつめた緊張感のなかで、シーン毎に揺れ動くテンポと、ときにまばゆいばかりの金管、ひなびた音色の木管楽器が多彩な色(カラー)を展開して、そこに微細なニュアンスがこめられている、というものです。イタリア人の父とフランス人の母のもと、ロンドンに生まれた〝サー・ジョン〟のスタイルは、その血筋もあってか、英国人指揮者の一般的なイメージとは大きく異なるものでした。そのアプローチの根幹を成すのは情熱的かつ情愛豊かなパーソナリティであり、ときに大胆なデフォルメも辞さずに思い切った表現を志向するその芸風は今も数多くのファンから愛されています。祖父も父もヴァイオリニストだったという音楽家一族ですが、ジョンはチェロを学び、チェリストとしてデビュー、オーケストラのほか、弦楽四重奏団でも活躍、やがて25歳のときには、自ら室内オーケストラを組織して指揮者に転向し、以後、表現に工夫を凝らした「バルビローリ・サウンド」を武器に、指揮者としての名声を確立、やがて30歳代半ばでアルトゥーロ・トスカニーニの後任としてニューヨーク・フィルハーモニック首席指揮者に就任するほどの活躍をみせることとなります。バルビローリがイギリスのパイ・レーベルにおこなった一連のセッション・レコーディングは、最初期のステレオということもあって、粗っぽいサウンドではありますが、明るい声で指示を出しているのがわかるような、演奏の生き生きとした様子が十分に伝わる迫力に富むものが多いのが特徴。ラヴェル、ドビュッシーは本盤が最高だ。ラヴェルはバルビローリ・マジックと呼びたいほどの幻想と興奮を味わえる。
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