いつものクリーヴランド管と違い熱い演奏です。 ― チャイコフスキーの第4交響曲は、当時不幸な結婚で悩んでいた作曲者の心境を反映した人生の苦悩と哀愁に関する標題的内容を持った情熱的な曲。妥協のない厳格なアプローチで、音楽の本質に迫ることで知られる大指揮者ジョージ・セルがデッカに残した名盤です。 巨匠にとっては珍しいレパートリーであり、ロンドン交響楽団とスタジオ録音を遺しながらも、生前は発売を許可せず録音しなおす予定であったと伝えられています。録音は1962年秋ですが、セルが発売を拒否していたため、この作品はSXLではリリースされていません。その後、未亡人が発売許可を与えるまで10年間お蔵入りとなっていた曰くつきの録音です。発売されたのは1972年、英デッカ社の廉価版シリーズは、1960年前後に第1の廉価盤シリーズ「Ace of Clubs/Ace of Diamond」を発売します。その後、1970年代に入ると第2の廉価盤シリーズ「Eclipse」を発売します。そして、第3の廉価盤シリーズとして「The World of Great Classics」として「SPAシリーズ」を発売します。本盤は、その第3の「SPAシリーズ」なのですが、クラシック入門編といった趣で演奏者の全然違う録音を組み合わせた編集も多く、コレクション的には無価値ですが、例えばエルンスト・アンセルメのチャイコフスキー「悲愴」交響曲のリアルステレオは英国盤ではこのレーベルだけですし、同じくアンセルメのブラームスやシベリウスなどの珍しい録音もオリジナルに近い金属原盤を用いており、音質的にもSXLシリーズより僅かスッキリした感はありますが、英デッカ社らしい高音質(Hi-Fi)となっています。同じソースでも、SXLオリジナルの⅕~⅒程度の費用で入手できるので、コストパフォーマンスの高い盤としてお勧めできます。英デッカの録音技術も最高で、オーケストラのパースペクティヴを生々しく、立体的に再現していて見事です。当時のデッカの高品位な録音技術は現在でも目を見張るものがあり、その鮮明さや力強さに今さらながら驚くことでしょう。セルのエネルギー感に満ちた演奏がよりデッカの録音とマッチし、スケール大きい演奏を堪能できます。さて、楽員の部分的なミスがお蔵入りの原因と言われていますが、完璧主義のセルにはかなりのミスだったのでしょう。演奏そのものはいかにもセルらしく端正かつ明晰でいてエネルギーに満ちたもので、オーケストラの響きも充実し切っています。すなわち、発売以来、クリーヴランド管弦楽団との演奏とは明らかに異なる〝熱気〟を持った演奏として、セルという偉大な指揮者の評価が更に高まったことでも知られている名盤です。チャイコフスキーの録音が少ないセルですので貴重な演奏になります。
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