フランシス・フォード・コッポラの名画〝地獄の黙示録〟でのヘリコプターの爆音はシンセサイザーで作られている ― ウィーン出身のエーリヒ・ラインスドルフは、ナチスを逃れてアメリカに渡り、当地で成功を勝ち取った名指揮者です。彼はアメリカでボストン交響楽団との活躍が長かったせいかアメリカの指揮者のようなイメージを持たれるほどです。ヨーロッパ時代には若くしてアルトゥーロ・トスカニーニやブルーノ・ワルターの助手を務めてオペラ指揮でキャリアを積み、1937年の渡米後も、まずメトロポリタン歌劇場でのキルステン・フラグスタートやラウリッツ・メルヒオールといった大歌手たちと共演したワーグナー指揮でその名声を轟かせました。切れ味鋭い名演の数々に、ラインスドルフのオーケストラ・ビルダーとしての巧みな手腕が100%発揮された。彼の暗譜で行われるリハーサルは、奏者の僅かなピッチの狂いもたちどころに指摘するほど厳格を極めたと伝えられていますが、本番では「音楽は自由であるべきだ」との信念からリハーサルよりもずっと手綱を緩めて素晴らしい名演を聴かせることで知られていました。その成果、ロンドン交響楽団の圧倒的でスリリングなエネルギッシュ感も感じ取れる演奏です。ビルギット・ニルソン、ジョージ・ロンドン、ジョン・ヴィッカーズら豪華歌手陣を起用。どの歌手も最高の時期の歌声と歌唱を聴かせてくれます。特別、第2幕のブリュンヒルデの登場から、ニルソンのクリスタルな声の魅力に引き付けられる。ラインスドルフは1937年にメトロポリタン歌劇場で楽劇《ワルキューレ》を指揮して以来、職人的オペラ指揮者として経験を積みました。本盤に聴ける物語と音楽の完全な把握、そしてその流れを明快かつ感動的につなげる手法は、ラインスドルフらしい技といえるでしょう。しかし同時期に録音されたハンス・クナッパーツブッシュの「ワルキューレ第1幕」と、ゲオルグ・ショルティの「ニーベルングの指環」全曲録音の影に隠れてしまって、脚光を浴びることの少ない不遇の録音ですが、プロデューサーにエリック・スミス、エンジニアにケネス・ウィルキンソンといえば泣く子も黙るデッカの黄金コンビ。RCAとデッカの提携時代の名録音のひとつである。ラインスドルフによる音楽的な設計が超一流なので、この見事な演奏の前では、〝リング全曲録音〟はショルティでなく、ラインスドルフで行うべきだった、とさえ思いたくなる。さて、本盤を肴に、かつてコッポラは『地獄の黙示録』で音楽を冨田勲にオファーしていて、「火星」が想定していたが、「ワルキューレの騎行」に代わった大人の事情を考えてみたい。→コンディション、詳細を確認する
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