どうしてあの時気付かなかったんだろう ― 令和元年9月29日に佐藤しのぶさんが61歳で急死したことが10月3日に発表された報に触れて、懐いが及んだソプラノ。演奏を聴いているだけで、この人はいい人なんだろうなぁ、という人柄が出てくる演奏家がいる。ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレスは、同じスペイン出身の重量級のモンセラート・カバリエの陰に隠れてしまいがち。マリア・カラスやレナータ・テバルディらと同時代に活躍した歌い手だが、胸のすくような技巧を誇示したりはしない彼女の歌唱に共通して感じられるのは、細やかで清楚な歌いぶりなのである。名前のアンヘレスとはスペイン語で天使のこと。多くの聴衆や指揮者たちから愛された彼女は、〝天使のビクトリア〟と呼ばれていたという。再発見が待たれる人だろう。熱狂的なオペラファンだった、日本文学と日本文化研究の第一人者であり、文芸評論家としても多くの著作がある故ドナルド・キーンが高く評価しつつも、オペラにおいては「蝶々夫人以外は…」というロス・アンヘレス。大歌手と呼ばれる柄ではなく、人柄はチャーミングで優雅、かつかわいい女性だったらしい。イタリア物もフランス物もドイツ物も非常にうまくこなし、バイロイト音楽祭にも出ている。ワーグナー・オペラのヒロインの中でもお姫様系統のエルザ(ローエングリン)やエリーザベト(タンホイザー)では最高だったらしい。美しく豊かな声、優れた歌唱技術、的確な様式感と表現力、温かみのあるフィーリング、誰からも好かれる人柄、イタリア、フランス・オペラはもちろんモーツァルトからワグナーまでこなす広いレパートリー。ロス・アンヘレスの評価グラフは真円に近かったと言える。こうした評価は舞台に接している批評家の感想であり、悔しいことですが、音だけのレコードで聴いて、モーツァルトからワーグナーの、どの役にも適合するような声のキャラクターと、カリッと上品な砂糖菓子のような軽い声質は唯一無二の個性だろう。カラスがその霊感に満ち満ちた強烈な劇的演唱のために、他のすべてを ― 声の美しささえも、表現のために ― 犠牲にしたのに比べると、実に対照的だ。無論人並み以上の努力はあっただろうが、強烈な個性を打ち出そうとうは決してせず、癖のある個性を強調した歌い方ではないのに、またきちんと役の違いを歌い分けているのに、どれを聴いてもロス・アンヘレス、というのはある。自分の〝素材〟の良さをしっかり知っていた人だったのだろう。 不思議な歌手だ。上演中に大向こうから〝ブラーヴァ!〟と声がかかるような大見得とか、聴き手を驚かせるような声の超絶技巧とか、激しい感情表現とか、そういう要素は彼女には全く希薄だったわけで、素人受けのするタイプではなかったということなのである。だからといって、まず彼女の歌声に嫌悪感を抱くことはないだろうし、オペラ初心者にもお勧めです。本盤は管弦楽伴奏の歌曲集。ドビュッシー、ベルリオーズはシャルル・ミュンシュの得意としたレパートリーですが、この《選ばれし乙女》、《夏の夜》が唯一の録音であるというのに忘れられそうになっている。ドビュッシーがローマ大賞授賞後、ローマ滞在中に構想されたオラトリオ《選ばれし乙女》は、ドビュッシーの音楽語法を熟知した充実した演奏が展開されている。ベルリオーズの《夏の夜》でのロス・アンヘレスの可憐な歌声も大きな魅力。作曲者の目論見では、男女取り混ぜて2人から4人の歌手がとっかえひっかえ交代で歌う、という構想だったらしい。作曲者の念頭にはひとりの女性歌手が6曲を歌い通すという発想はなかったらしい。→コンディション、詳細を確認する
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