アッピア街道を凱旋してくるローマ軍団が眼前に迫る大迫力は、この盤でしか聴くことのできない強烈な音体験。 ― 交響詩《ローマの松》はオーケストラの醍醐味が堪能できる壮麗な音絵巻。オーケストラ音楽を初めて生で聴いた全ての人が、興奮状態でコンサートホールを後にする。ステージから溢れるほど多くの楽員が並んだ上に、やがて客席の数ヶ所に陣取った金管楽器奏者たちが立ち上がって、これでもかとばかりに迫力満点の吹奏を繰り広げる。そのあまりに壮麗な響きにたまげるからだ。その破天荒な迫力に満ちた音楽を書いたオットリーノ・レスピーギは、オペラでなければ音楽ではないというような19世紀後半のイタリアに生まれ、後に純粋器楽の復興の旗頭になった。代表作が「ローマ3部作」と題された交響詩。その第2作として1924年に初演された《ローマの松》を締めくくる第4部、「アッピア街道の松」(YouTube動画の15分以降)では、霧に包まれた夜明けの軍用街道を、古代ローマ軍が進軍してくる様が描かれる。ただ、この曲の醍醐味は、コンサートホールでしか味わえない。令和元年9月29日に鶴屋百貨店のクラシックサロンで、実行した鑑賞会で聴いて感動したレスピーギの交響詩「ローマの噴水」と、「ローマの松」。本盤がそのレコードです。これまた、フリッツ・ライナー=シカゴ交響楽団の素晴らしさを知るための恰好の1枚で、オーケストラの各パートの名技 ― 特に金管セクションの見事さ、を完璧にコントロールするライナーの指揮者としての桁外れの才能を刻印しています。アルトゥーロ・トスカニーニ=NBC交響楽団の名盤に匹敵する名演で、作品のオーケストレーションの妙が完璧な精度で描き出されており、特に「アッピア街道の松」のクライマックスは圧倒的。聴き終わって、立ち上がって拍手していた参加者の笑顔が眩しかった。何かを会得したような表情でしたので、感想を問うと、映像はないけれども感動する映画を見た後のような気分。情景が見えてくるようだったと、楽曲の、演奏の本質が言い得ていたので驚いた。以前、シベリウスの交響曲第1番を聴いた時の反応も、日本の音楽のように親しみを感じると言われて嬉しかったが、20世紀の音楽は、ベートーヴェンよりも楽しんでもらえるクラシック音楽だったのか。シカゴ響と名演を色々のこしているライナーと、シャルル・ミュンシュに共通して言えるのは、この楽団のアンサンブル能力を極限まで引き出すことに成功していることと、その卓越したリズム感覚である。20世紀のアメリカのオーケストラは元気があった。少しも淀むことのない圧倒的な「色の洪水」を味わえる。そして常に前ノリで続いてゆく疾走感は、ヨーロッパ系オーケストラでは到底味わえない楽しさがある。本当にローマの兵士が凱旋行進をしながら歩いてくるような光景が脳裏に浮かぶ。「イメージに満ちた演奏」とはこの事である。そして、木管の燦めくアルペジオ、ミュート・トランペットの劈くパッセージなど、雑味のようなところが薬味に転じているのは、調整の行き届いたオーディオ装置で聴いたからだろうか。シェーンベルクの十二音技法、ストラヴィンスキーの新古典派主義といった新しい語法を模索していた20世紀初頭は、ロマン派という巨大な球体のような音楽が破裂寸前まで膨張した時代である。遅れてきたロマン派作曲家レスピーギの音楽を聴き終わった後の満足感が保証されるのは、近代的な和声法やテクスチュアと忘れられていた音楽から新しい音楽語法を融合させている、「新ルネサンス様式」「新バロック様式」と呼べる過去の作曲家や古い様式への献身にある。イタリアから伝搬していった音楽文化の、ヨーロッパ全土からの影響を咀嚼して、現代的な音楽文化を成立させた。交響詩「ローマの噴水」は、「朝のトリトンの噴水」や「昼のトレヴィの噴水」といった観光名所に、神話の物語を重ねながら、「夜明けのジュリアの谷の噴水」から、市井の朝、行政中心部の昼、古の栄光を偲ぶように「メディチ荘の噴水」でたそがれを迎える。ローマはその輝かしい栄光と美しさを讃えて「永遠の都」とも呼ばれています。古代ローマの闘技場「コロッセオ」など歴史の跡が今もなお残る街。でもローマで私たちを待っているのは遺跡だけではありません。そして交響詩「ローマの松」はローマにある松の名所が描かれています。ローマでは〝繁栄・不死・力〟の象徴とされ、古代から大切にされてきました。そのため、ローマには到處に松の木があります。映画「ローマの休日」でも、オープニングや、「いいところね」と、アン王女がアパートの屋上から見晴らす風景の中に松を見つけてください。この楽曲には、いったいどんな松が描かれているのか、もともとは貴族の邸宅だった「ボルゲーゼ荘の松」は、今ではローマ市民の憩いの場となっています。悲しげな聖歌が地底深くから立ち昇り、荘厳に響き渡る様子を松が見守っている「カタコンブの松」。街を見渡せる、眺めの良い場所にある「ジャニコロの松」の日が暮れて夜になると、穏やかな満月の下、松の姿が浮かび上がり、鳥の歌い声が聞こえてきます。夢のなかで古代の争いが振り返られる「アッピア街道の松」。「すべての道はローマに通ず」なんて言われるローマの道の中でも、もっとも長い歴史を誇ります。古代、戦いに勝ったローマ軍が行進した栄光の道です。ローマからイタリア南端まで全長約560キロにも及ぶ長い、長い街道の両側に松は聳え立っています。昔も今も、ローマの風景に溶け込んでいる松。松は輝きに満ちたローマの歴史を何千年もの間、見守ってきたのです。さて、「ジャニコロの松」のスコアには、〝GRF〟と書かれた指示があります。第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて、20世紀前半は戦争の時代でした。この最中に活躍したレスピーギの作品はファシスト党政権にも非常に好評であったが、レスピーギ自身はまだファシズムに深入りしてはいなかった。後半生はベニート・ムッソリーニのファシスト党とぎこちない関係を続けた。その頃、蓄音器は文化の象徴でしたから、楽器の一つとしてレスピーギは音楽史の一葉に遺しました。ナイチンゲールの鳴き声を録音したレコードが蓄音機(Grf)で再生されるわけです。→コンディション、詳細を確認する
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