嗚呼、これがスタンダードな演奏なんだ! ― と納得する程の安定感がある。オイゲン・ヨッフムらしく骨太でドラマティック、ゲルマン的なオペラ《魔弾の射手》。序曲もヨッフムが師と崇めたヴィルヘルム・フルトヴェングラーと同様のテンポ設定ながら彫りは浅く、妙な重々しさがないので聴きやすいからだろう。巨匠は終生、フルトヴェングラーの影が付き纏ったアコーギクが特徴だった。アレグロは常にアッチェレランドが掛かっているかのような推進力を感じるが、気持ちの上だけなので壮絶にはならずに何処か軽い。ここに当時の巨匠の若さがある。《魔弾の射手》は、有名なわりには録音の少ないオペラだけに、領主オット・カールにエーベルハルト・ヴェヒター、ヒロインのアガーテがイルムガルト・ゼーフリートといった往年の名歌手を起用したこの録音は貴重だ。二人の狩人が、クルト・ベーメ、リヒャルト・ホルムと歌手も粒揃いで、腹黒い狩人であるザミエルとして、エルンスト・ギンスベルクが語りで参加していて、どの場面も遜色のない仕上がりなので、この作品のスタンダード盤として推薦できる。リストがチェロの序奏をつけてオーケストレーションにした「舞踏への勧誘」が馴染み親しい、カール・マリア・フォン・ウェーバーはヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトのいとこ。もっともモーツァルトとウェーバーに血のつながりがあるわけではなく、ウェーバーの父親の兄の娘がモーツァルトの妻のコンスタンツェ(旧姓ウェーバー)です。ウェーバーの歌劇《魔弾の射手》は、だが昔から日本の音楽ファンにも親しまれた歌劇でもある。全曲となると意外と聴く機会がないにも関わらず、合唱を披露するのに向いていることもあって、オペラ・コンサートのイベントによくプログラムされている。幼心にも、これがドイツの森の情景が伝わる。だから名盤と言われている盤も数多くある。ベルリン・ドイツ・オペラの来日公演で《魔弾の射手》を観て、2枚組という手頃さも手伝って最初に買ったオペラ全曲盤だったと思う。「狩人の合唱」を気に入っていて、序曲にゾクゾクし興味が湧いていたオペラを経験して、ドイツ・オペラがわたしの最初の興味事になった。ドイツ的な素朴さと、対立要因としての邪悪さのコントラストに取り憑かれ。そしてバイエルン地方特有の、ある種の脳天さとか明るさを刷り込まれた。シューベルトの歌曲に夢中だったから、素直にドイツ・オペラから入ることが出来た。この頃のドイツ系の歌手は見事にドイツ語を音楽に乗せる。パウル・キューンの農夫キリアンの一声が如何にもドイツの明朗なバス。ホルムとアルプレヒト・ペーターの掛け合いから始まり、ベーメが加わる三重唱も見事なアンサンブルで惹きつけている、そこに合唱が入るとこれこそドイツの森が浮かぶ風土的なものを感じる。この合唱を聴いて正にドイツ精神の結晶とするのは言い過ぎだろうか。ワルツも過度にならずに豪快だ。その後のホルムのアリアも破綻がなく素晴らしい。ヨッフムの伴奏は過度にはオーケストラを鳴らさないが、ベーメ演じるカスパールの感情と同調し膨れ上がる絶妙さ。第二幕の、リタ・シュトライヒのエンヒェンとゼーフリートのアガーテの二重唱の幸福感は良いものだ。バイエルン放送交響楽団がアンサンブルの整った演奏で理知的に音楽を味あわせてくれている、伝説的とも言える地位を確立しています。名演と言うより熟演と呼びたい。
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