ヴォルフの歌曲を、シュヴァルツコップの名唱の第1にあげたい。 ― 往時の歌手らに比べ、声が抜けず、イタリアやフランスものは、声質そのものの魅力に乏しく、本来の実力を発揮していない傾向がありましたが、ドイツものとなると話しは別で、妖艶さと清廉さが混在した含蓄ある表情と解釈には、その完璧なテクニックと、並外れて知性的な分析力で極めて優れたものとなります。なにをいまさら彼女の歌唱の素晴らしさを、述べ立てて何になろうか。往年のレコード愛好家が共有していることだが、ディクションの正確さも特筆したい。今もってエリーザベト・シュヴァルツコップの歌がかけがえのない唯一無二の名演・名唱となつている曲がいくつもある。そのことでもレコードの役割りに感銘する。一度聞くと誰もが魅了されるものをあげるなら、まず1956年にヘルベルト・フォン・カラヤンの指揮で録音したリヒャルト・シュトラウスのオペラ「ばらの騎士」をあげなくてはならない。あの元帥夫人の美しさ。オクタビアンに思いを残しながら、若いゾフィーに恋人を譲り、退場する時の心の動きを、彼女ほど気品高く聞かせた人はいない。モーツァルトではフィオルディリージを歌うシュヴァルツコップの美しさ。オペラの録音というのは、完璧なものなんて滅多にないもので、どこかに穴があるものだが、このカール・ベーム指揮のモーツァルトのオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」はそれがない希有なものだ。1947年にカラヤンがウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮して録音した〝ベートーヴェンの第九〟でも彼女の名前があるが、やはりヴィルヘルム・フルトヴェングラーの〝バイロイトでの第九〟で彼女がソリストをつとめたことでシュヴァルツコップは不滅となったことは間違いない。オットー・クレンペラーの指揮したヨハン・ゼバスティアン・バッハの「マタイ受難曲」やブラームスの「ドイツ・レクイエム」、ベートーヴェンは「ミサ・ソレムニス」、あるいはカルロ・マリア・ジュリーニが指揮したヴェルディの「レクイエム」などの宗教音楽もヴィンテージをコレクションする定番だ。クラシック音楽名曲鑑賞の必聴曲を指折り、シュヴァルツコップの歌唱が占めていることに改めて驚く。しかし、私が彼女の演奏で特に魅力を感じるのはドイツ・リートのジャンルである。ジョージ・セルの指揮で録音されたリヒャルト・シュトラウスの「最後の4つの歌」を彼女のドイツ・リートを代表する演奏としてあげるし、マーラーの「子供の魔法の笛」もある。ピアノ伴奏では、シューマンの「女の愛と生涯」もあげなくてはならないだろうが、好きなリートをと問われたら、ワルター・ギーゼキングとのモーツァルト、エドヴィーン・フィッシャーとのシューベルトのリート集も文句なしに素晴らしいものであるにもかかわらず、私はヴォルフの歌曲をシュヴァルツコップの名唱の第1にあげたい。EMIの名プロデューサーにしてシュヴァルツコップの旦那であるウォルター・レッグが全集録音を渇望していたヴォルフだけに録音、演奏会で数多く歌っている。「イタリア歌曲集」、「スペイン歌曲集」、「ゲーテ歌曲集」と大作が聴けるほか、フルトヴェングラーがピアノで伴奏したリサイタル盤もある。ゲーテ歌曲集の「アナクレオンの墓」を聴き返しながら、実際に聴けた人はどれだけ幸せだったことだろうと思いに耽ったものだ。名伴奏ジェラルド・ムーアと組んだこの歌曲集も彼女の魅力を存分に詰め込んだ選曲であるから、当然、本盤が高い評価を受け続けているのも頷けます。
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