ここでのフィッシャー=ディースカウがドイツ語でうたっているということもあってのことだろう、あの微に入り細を穿った表現が裏目にでて、なんとも奇妙な歌唱になっている― これは黒田恭一が、遺著『オペラ版 雨夜の品定め 名作オペラのベストキャストは!? [単行本]』の中で、「ぼくの手元にある、もっとも風変わりなリゴレット」としてホルスト・シュタイン盤を品定めしている。そのあとすぐ「若い頃のフィッシャー=ディースカウの声は絶品である」と付け加えることも忘れていないけれど。英DECCAにフィッシャー=ディースカウがスカルピアを歌ったプッチーニのオペラ『トスカ』全曲盤(ロリン・マゼール指揮、GB DECCA SET341-2,1966年録音)がある。トスカ、カヴァラドッシ役は、ビルギット・ニルソンとフランコ・コレッリの言いがたい組み合わせだが、これにはフィッシャー=ディースカウ以外の主役をアニア・シリアとジェイムズ・キングに替えたドイツ語歌唱のハイライト盤がある。イタリア語の全曲盤と平行して収録されたオリジナルの抜粋盤で、主役ふたり以外は共通です。ドイツ向けのローカル企画だったもので、シリアのトスカ役が聴けるという他にかけがえのない価値を持つ一枚で、シリア同様、ワーグナーで鳴らしたキングによるカヴァラドッシ役も、その輝かしく力強い声の魅力を存分に堪能させます。プロコフィエフの「ピーターと狼」は、各発売国で母国語を合成できるようになったが、イタリア語、フランス語、ロシア語のオペラをドイツ語歌唱でハイライト盤はこの時期には多くあった。ドイツやオーストリアの歌劇場では、ヘルベルト・フォン・カラヤンあたりが原語上演を広めるまではこうしたドイツ語による訳詞上演が普通であり、ドイツ語圏の一般家庭で気軽に聴けるようオリジナルのハイライト盤のためにだけ組まれたもので、その意味でも当時はなんという贅沢ができた時代であったか羨ましい企画物である。かつても近年でもワーグナーの楽劇は、イギリスでは英語歌唱で上演されている。ハイドン、モーツァルトが活躍した時代はオペラはイタリア語で書くものだったが、本盤はそれらをドイツ語による歌唱のオペラ・アリア集。ドイツ語の響きさえ気にならなければ、十分楽しめる。モーツァルトはまだしも、ヴェルディやプッチーニ、さらにはチャイコフスキーをドイツ語歌唱で聴くというのも、今の時代、なかなか勇気のいる行為だろう。でも、それだけで聴かないというのはもったいない。というのも、本盤が録音された時にはほとんど知られていなかった作品を演奏しています。最初の4つのアリアはハイドンのオペラからのもので、現在でも演奏されたことは滅多にありません。またモーツァルトのドイツ語のオペラ「後宮からの誘拐」を予感させる未完のアリア曲をはじめ、いくつかの珍品が並び、締めくくりに《フィガロの結婚》からアルマヴィーヴァ伯爵のアリアが唯一の有名な曲となる、最強の選曲だ。イタリア語、ドイツ語での表現でもフィッシャー=ディースカウの万能ぶりも言い落とせません。丹念に探さないと出会えないタイプのレコードでしょうが、珍品と片付けるに惜しい。
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