曰く付きの盤。 ― 夭折の天才が残した、歴史的にも貴重な記録が刻まれた一枚、一枚を繰り返し聴きながら、誰もがリパッティの新しい録音、音質の良い音源の登場に恋い焦がれていた。リパッティの晩年には、テープ録音の普及が広がる頃で、そこに待望のショパンであったから無理からぬ。本盤は、英EMIによってリパッティの演奏として発売されたが、実はポーランドの女流ピアニスト、ハリーナ・チェルニー=ステファンスカの演奏であることが明らかになった盤である。音源は、スイスのドクター・カスパルの提供したテープから製作されたもので、指揮者およびオーケストラは不明であった。当時担当のレコーディング・マネージャー、ウォルター・レッグが、確認のために録音を未亡人のマダム・マドレーヌ・リパッティに聴いてもらい「主人の演奏に間違いない」との事で発売したのもしかたない。リパッティ演奏として、6万枚売れたこのレコードはスプラフォンによって1955年に録音されたチェルニー=ステファンスカ女史の演奏にほかならなかった。これを、1966年にオーケストラや指揮者をクレジットしないで大発見と発売した。1971年にイギリスでリリースされたレコードのジャケットには次のように書いてありました。「この録音はショパンのピアノ協奏曲第1番のディヌ・リパッティによる演奏を含みます。それは1948年5月にスイスで行われたコンサートでEMIが収録していたテープによるものです。演奏者はリパッティによるものです。が、詳細が得られず指揮者とオーケストラの名前を確立することができませんでした。しかし、この特別なライヴはこれまで英国では未発表だった、貴重な音楽ドキュメントです。」オーケストラはコンセルトヘボウ管弦楽団かミラノ・スカラ座管弦楽団かもしれないと考えられていました。放送録音で、オーケストラの紹介の一部が演奏が始まる部分に残っていたといわれているが、夫人は言及していない。1948年2月から3月にかけてスイスを演奏旅行したリパッティは、5月に入ると、イギリス、オランダ、フランスで演奏会を開き、ロンドンで、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮のもと、シューマンのピアノ協奏曲を録音している。レコードのジャケットにクレジットされた日付に、リパッティがワルシャワ管弦楽団と共演した事実はないと、夫人は録音の信憑性について疑問を明確に表明していましたが、時はテープ録音が注目されている最中であったことを考え合わせると、リハーサルの時に録音されたのかもしれない。ピアノのテンポや、第1楽章のオーケストラによる主題の提示部カットはリパッティのスタイルではないが、演奏会本番での演奏ではないことが理由にあるかもしれないと妥協している。演奏者不明のこの録音が彼の演奏と言うことで、日本でこれが売り出されるや以来、数多くの音楽評論家達が「さすがリパッティだけあって名演奏だ!」という褒め言葉で、この曲の代表的な演奏として絶賛していて、名曲ガイドブックの類にはよく取り上げられていた。事情が変わったのは、EMIが1981年にレコードを再発売したとき、BBCはそのレコードを放送し、それを聴いた視聴者からチェルニー=ステファンスカが1950年代初頭にチェコのスプラフォンへ録音した演奏との類似性を指摘された。それを受けて行われたBBCとEMIによるテストで、遂に2つの録音は同一であることが明らかになります。すでにレッグは1964年にEMIを去っていた。EMIは該当レコードの製造を中止し、女史に陳謝の書面を送り、女史とスプラフォン社に賠償を支払うことで、一件落着となった。曰く付きの1枚。
from 100年後でも聴いて楽しいアナログ名盤レコード https://ift.tt/2Yr3zm0
via IFTTT

