20世紀で最もすぐれた合唱作品 ― ロマンティックで、イギリス的な雰囲気な作風のサー・ウィリアム・ターナー・ウォルトン(1902〜1983)は戦後純音楽の分野で活躍しました。『戴冠式テ・デウム』は英国女王エリザベス2世の戴冠式の最後を彩るための音楽で壮麗で祝典的曲で、親しみやすい音楽だ。『ベルシャザールの饗宴』では、ユダヤ人のバビロン捕囚と、やがて実現される予言へ期待 ― ウォルトンの選んだ物語は、旧約聖書に出ている栄華を誇り悪徳の栄えたユーフラテス河畔の大都会バビロンの崩壊 ― を描いている作品です。二重合唱や二群の吹奏楽を要する壮大なこの作品は、余りの音響に耳疲れがすることもあるかもしれないくらいに、ダイナミックな表現が冴えた演奏です。全曲を通して、複雑なリズムと、豊かな管弦楽法が際立っている。ウォルトンの「ベルシャザールの饗宴」はヘンデルの同名の曲ほど人気がない。しかし、聖書の物語を伝えるために利用されたリズム語法や和声法は、ウォルトンが興味を持っていたジャズなどのポピュラー音楽を反映している。ロンドン交響楽団時代のプレヴィンこそ、若き日にジャズ・ピアニストとして培ったリズム感と、ハリウッド映画の作曲を通して身に付けた音楽の伝わり方のわかり易さと手際良さ、そして指揮法の師だったピエール・モントゥー譲りのオーケストラを自在に操るテクニックとが一気に開花した絶頂期にあった。この音楽に浸っている間、しばし浮世の憂さを忘れられること請け合いです。そして合唱、オーケストラ、独唱者はオール・イングリッシュ。曲の編成はバリトン独唱、二重混声合唱と膨大な編成のオーケストラにサキソフォーンやあらゆる打楽器(スラップスティック、かなとこ、など)が加わり、これらのオーケストラのほかに2つのブラスバンドが指揮者の左右に配される。プレヴィンは、作曲家の同席するなかで手勢のロンドン響を用いて映画音楽のように色彩感溢れる物語描写的な演奏を成し遂げた。それをクリストファー・ビショップ/クリストファー・パーカーは、録音会場に聴者を招待し聴かせているような錯覚を与えるバランスで録音した。キラキラ輝く音質はここでも素晴らしい、楽器の音色が判別しやすく、音が前へ前へと飛んで来る勢いがある。豪快華麗なウォルトンの代表作で、また今世紀の合唱音楽の代表作でもある。大都市バビロンの崩壊を嘆く声に平行してユダヤ人民は自由を喜び合い、歓喜の合唱を歌うクライマックスは、ヘルベルト・フォン・カラヤンが「20世紀で最もすぐれた合唱作品」と言ったのが納得できる、壮麗な音響が楽しめる。
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